涼太 「はー、美味かった。たまには外で飯を食うのもいいな」
まあ、この町じゃ飯を食える店も限られてるんだけど。
とは言え、ランチならこの喫茶店で充分すぎる。
祭 「そうか、そうか。そりゃ、この祭さんの愛情がこもってるからね」
涼太 「ん? 調理もおまえがやってるのか?」
祭 「んにゃ、普段はやらないけど、客があんたらなら別にいいかと思って」
涼太 「ぞんざいな扱いだな!」
いや、美味かったから文句はないんだけどさ!
祭 「まあ、私はなんでもやるよ。ウェイトレスから調理、皿洗い、お掃除、帳簿だってつけちゃう!」
渚沙 「ちょ、帳簿? 祭ちゃん、そんなことまでやってるの?」
祭 「んー、簿記3級くらいは持ってるしねー」
渚沙 「え? たまたま勉強ができるんじゃなくて、マジで数字強いの? 何者なの?」
祭 「ちょいと、トガー。あんたの幼なじみ、ナチュラルに失礼だよ」
涼太 「なにが目的で簿記なんてやってるんだ?」
祭 「アズの無礼さは、トガーの悪影響か」
祭 「まあ、私の実家乗っ取り計画の第一段階としては、帳簿の掌握は必須だし」
涼太 「なんか、いつになく具体的な話だな……」
資格まで取ってるとなると、いつか実家を乗っ取ってやるって話も全然ジョークじゃなくなってくるというか……。
泉実 「こんにちはー」
泉実 「あれ、みんなおそろい? 僕だけハブられてる? もしかして、平和な学園にも目に見えないイジメが?」
爽やかに微笑みながら言うな。怖いから。
泉実 「ねえねえ、僕っていじめられてるわけ?」
涼太 「おまえ、全然いじめられてるように見えないから」
むしろ、特に悪くない俺たちが責められてて可哀想だから。
祭 「ズミーは、優しそうな顔して、たまにドSだからなあ。ズミーも[昼餉/ひるげ]?」
泉実 「喫茶店なんだし、せめてランチって言おうよ。ていうか、どんな店でもそんな言葉のチョイス、あり得ない」
祭 「おっと、思わぬところで育ちのよさが出ちゃったよ」
昼餉……は育ちがいい言葉遣いなのか……?
祭 「えーと、ズミーはアイスコーヒーでいいよね。じゃ、ちょっとお待ちをー」
泉実 「いいんだけど、ナチュラルに人の注文を決めてくれるなあ。よくクビにならないね」
涼太 「問題はあるけど、よく働くからじゃないか? 帳簿もつけられるらしいし」
泉実 「嵐野さんが帳簿……? ダミーとか二重帳簿とか、そういうダーティな単語が浮かぶんだけど……」
涼太 「ま、まさか……」
というかそもそも、祭は口こそ悪いけど、根が善良だからあんまり悪いことはできないたちだと思う。
本人に言うと顔真っ赤にして否定してきそうだけど……。
泉実 「ところで、みんなそろって、遊びの相談かな? 夏休みだもんね、補習ばかりじゃ気が滅入るよね」
涼太 「なるほど、それもそうだな……」
祭 「おっと、遊びの相談ならこの祭さんを忘れちゃ困りますぜ、お客さん!」
祭の奴、アイスコーヒーを取りに行ってたはずなのに、手ぶらで戻ってきたな。
祭 「明日は補習もないし、さっそくってことでどうかな! バイトも休みなんだよ!」
泉実 「いいんじゃない? 思い立ったが吉日って言うしね。みんなの予定さえ合えばいいと思うよ」
涼太 「うん。俺は問題ないな」
渚沙 「あたしも問題はないけど……どこへ行くつもり?」
アウトドアが苦手な渚沙さんは、お外での遊びを警戒なさっている様子。
星里奈 「渚沙も、まあそう言うな。補習で一番ストレスがたまってるのはおまえだろう」
星里奈 「外で日の光を浴びれば、ストレスもやわらぐというぞ」
陽鞠 「陽鞠なんて浴びまくりで、やわやわですよー」
それはそれでどうなんだ……?
いや、渚沙は確かに少し日光浴びたほうがいいとは思うけど。
星里奈 「せっかく、無駄に自然だらけの環境なんだ。キャンプや川遊びを楽しんでくればいい」
渚沙 「まあ……たまにはいいか。自然の中で、冒険もののラノベを楽しむっていうのもありね」
涼太 「渚沙はブレないな……って、ちょっと待て、星里奈」
涼太 「星里奈は、来ないつもりなのか?」
聞き流しそうになったけど、さっきの言い回しだとそう聞こえるような……。
星里奈 「若い人たちだけで楽しんでくるといい。ああ、小遣いはいるか?」
涼太 「保護者か、おまえは!」
もちろん小遣いはいらないけど、星里奈は本気で同行しないつもりだな……。
陽鞠 「陽鞠ほどの上級者になると、キャンプや川遊びぐらいじゃ物足りないですねー」
陽鞠 「といっても、あまりハードだとなぎ姉が死すですね」
涼太 「死すって……」
というか、俺もハードな遊びは勘弁だ。
祭 「まあまあ、参加するかどうかは当日決めてくれたっていいし」
祭 「どこで遊ぶか決めようか。毎日暑いし、やっぱあそこかなー」
ここらで遊べて涼めるところ……となれば、自ずと場所も決まってくる。
祭 「女子みんながヌレヌレで、トガーとズミーが大喜びだね!」
とりあえず、祭が話を進めてくれるみたいだ。
星里奈と陽鞠は……どうするんだろうか。
この二人は時々家を留守にするだけじゃなくて、やっぱり俺たちと距離……というか、一歩引いた感じが、するんだよな。
決して仲が悪いわけじゃない。
一緒にいれば、仲良く雑談くらいは交わすし、気心の知れた気安さというのも、もちろん失われたりはしていない。
でも時折、“席”を立ち上がろうとしているような、そんな気配みたいなものを、感じてしまう。
もしかすると、それこそが大人になろうとしている、ってことなのかもしれないけど……。
だけど、やっぱり……。
少しだけ――寂しい、かな。
夏休みのお出かけ第1弾は、話し合いによって“川遊び”ということに相成りました。
帰宅して、渚沙の部屋で必要なものを調査中。
俺もPC持ってるけど、渚沙のほうがいいやつ使ってるからな。
涼太 「うん、まあこんなもんか」
涼太 「必要なものは祭が揃えてくれるんだよな。メールしとこう」
渚沙 「祭ちゃん、行動力あるから助かるわね」
渚沙 「ま、川なら近いし涼しいし、インドア派にも優しいわね」
涼太 「……おまえ、そのうち引きこもりになったりしないだろうな?」
他人に言われるだけでなく、最近は自分でもインドアを自称するようになってきてるし、いつか開き直りそうなのがちょい怖い。
渚沙 「大丈夫よ、あたしはいつか車の免許を取って、遠くの大型書店に[足繁/あししげ]く通う予定だから」
外出する理由が本屋なのは、なんかブレてなくて凄いな。
涼太 「本屋の、他は……? 人間には衣食住ってものが必要になるんだぞ?」
渚沙 「そんなもの、適当に満たしておけばいいじゃない。人類にとって、書店以上に重要な場所なんて存在しないわ」
言い切りやがった。なんというか、流石です。
涼太 「とても文化的な生活ですね……」
あとラノベを愛好するのは大変けっこうなんだけど、他の本を読んだりするのもいいと思うが、どうだろう。
まあ、今はそんなことはどうでもいいんだけど。
涼太 「……渚沙は、なんだかんだ言って付き合いがいいよな」
渚沙 「リョータや祭ちゃんが強引なのよ。雨夜君も優しい顔してマイペースだし」
涼太 「俺も祭たちのペースに乗せられてる側だぞ。いや、俺や渚沙のことはいいんだけどさ……」
渚沙 「問題はあの二人……ってことね」
渚沙が、深いため息をつく。
渚沙 「星里奈も陽鞠も、来ないって言うような気がしてたけどね。やっぱりかって感じよ」
涼太 「ここ数年はずっとそんな感じだからなあ」
渚沙 「星里奈には剣道があるし、陽鞠は山登りとかトレーニングとかがあるから、わからなくはないんだけど……」
渚沙 「もっと小さい頃は普通にみんなで遊んでたのにね」
涼太 「まあなあ……」
今も、俺と渚沙の二人だけだしな。
星里奈は実家の様子を見てくる、と言ってちょっと前に家を出かけて行った。
ちなみに俺以外の居候ズはみんな、この町にちゃんと実家もある。
みんなほとんど実家には戻らない生活をしているが、星里奈は家に道場があるので、ちょこちょこ掃除をしに戻ったりしている。
涼太 「そういや、陽鞠はなにをしてるんだろ? 帰る途中で、いつの間にかいなくなってたけど」
渚沙 「陽鞠の行動なんて誰にもわからないわよ」
涼太 「必要に応じて気配を消せるのも、なんか野生動物っぽいな……」
渚沙 「て、ていうか……」
涼太 「ん?」
渚沙 「あ、あたしとリョータがいつも二人きりだと、付き合ってるみたいじゃない!?」
涼太 「まあ、そんなことは別にいいんだけど」
渚沙 「たまにこいつ、殺したいわ……」
涼太 「お、おお?」
冗談だっただろうに、なんでまた突然マジの殺意を。
渚沙さんって時々怖い。
渚沙 「……いいわ。星里奈たちのことは、なんとかするわ」
涼太 「手があるのか?」
渚沙 「ラノベ主人公はいつだって奥の手を持ってるものなのよ」
涼太 「いつから主人公になったんだ、おまえは」
と言いつつ、俺も奥の手とやらは、だいたい予想がつく。
ただしそれは――根本的な解決にはならないんだよなあ。
(to be continued…)